デジタルおたく、まもるくんの日記4°♪( ^-^)/★,。・39°

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麻倉先生の 音の記事1

麻倉先生の 麻倉怜士のニュースEYE の「悲愴」「AKIRA」を聴け ブルーレイ、音質の大進化という論評があります。これは 大変素晴らしいもので特に 音 音質の劣化 進化 を科学的に推察されたもので 今までの評論家からは聞けなかった 画期的なものだと まもるくんは思いました。よってその論評全文をここに 保存しとくのが いいかと思いました。一応リンクも付けときます。
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ブルーレイ・ディスク(BD-ROM)のリリース数がここにきて急増している。アメリカの「amazon.com(アマゾン・ドット・コム)」で確認したところ、BD-ROMのタイトル数は約2000にもなっていた。アマゾンでBD-ROMの新譜を買うのが、目下のところ私の趣味になっている。日本よりリリースが早く、価格もとてもリーズナブル。

 特にすごいのが、ユニバーサル系のオペラの充実ぶりだ。「アイーダ」「椿姫」「フィガロの結婚」など世界一流の歌劇場での最高の演奏をハイビジョンの高画質とHDオーディオの高音質・サラウンドで愉(たの)しめるとあれば、円高も加わり、どんどん見境なく買ってしまおうということになる。

 これまでBD-ROMの魅力として画質のことをもっぱら言ってきたが、今回は音質のすごさについて、最近の体験を元に語ってみよう。


■エンコーディングの違い、如実に

 今年はBD-ROMで2つの大きなエポックメーキングがあった。

 ひとつはNHKエンタープライズが発売した「NHKクラシカル 小澤征爾 ベルリン・フィル『悲愴』2008年ベルリン公演」。小澤征爾氏がベルリン・フィルの指揮をしたコンテンツだが、非常にすばらしい出来で、8190円という高い値段にもかかわらず、一時は市場が払底するくらいの大人気を博した。
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 本作品は人類がパッケージメディアで得た最高のクオリティーといっても過言ではない。私はよく家でのホームシアターパーティーで、NHKが3月にBS-hiで放送した映像を再生した後、今度は同じ内容のBD-ROMの映像を見せている。すると、みんなが「おお」という驚きの歓声をあげるくらい画質が違うのである。



 もともとNHKが放送した映像の画質もデジタル放送としては極上の部類で、当然フルハイビジョンであるし、「MPEG-2」の24Mbpsという充分なビットレートを使っている。

 くっきりとした輪郭感と、透明感の高さ、コントラストの強靱さなど、いかにもハイビジョンらしい明晰さが特徴である。画面全体を覆うクリアさは最新録画ならではの美質であろう。しっかりとした映像なのだが、これがBD-ROMになると全く見え方が変わり、ベールが2、3枚取れた感じになる。

 エアチェック盤の持つクリアでハイコントラストという基本的な資質は共通しているが、違いは俗っぽくいうと「細部への神の宿り方」だ。

 まず明らかに映像情報が多い。細部にしっかりとした情報とコントラスト感が凝縮し、ブリリアントな光彩を放っているのが感動的だ。例えば第一楽章の冒頭はファゴットの蠢(うごめ)きで始まるが、その木部と金属部の対比が極めてダイナミックで、煌々(こうこう)たる照明を浴びて放つ尖鋭な反射光は実にゴージャスである。

 そんな観照は弦楽器の飴色の深さや燦めきにも感じられた。一方、金管楽器は全身が金属感と反射感の塊であり、その鮮明で剛毅な質感、輝きのピーク感は豊潤だ。細部の耕しが深く、クールにして温度感が高い。そして高剛性にしてしなやかだ。

 フルハイビジョンのHDCAM-SRカメラで撮影し、放送波では24MbpsのMPEG-2に圧縮したが、BD-ROMでは30Mbps以上の平均転送レートを持った「AVC High Profile」に圧縮した。そのエンコーディングの違いが如実に表れている。



■従来のDVDの二十数倍の情報量

 映像でもこれほどなのだが、実は音声の方がさらに差が大きいのである。よくSD(標準画質)とフルハイビジョンの画質を画素数で比較するとき、SDは33万画素だが、フルハイビジョンは207万画素なので6倍強の情報量があるという言い方をする。

 これを音質に当てはめてみると、そんなものでは収まらない。従来のDVDの場合、5.1chの音質だとドルビーデジタルなら384kbps、つまり0.384Mbpsになる。これに対し、今回採用された96kHzサンプリング/24bitの非圧縮の5.0chのレートはおそらく10Mbps以上である。計算すると、音質は二十数倍という差になるのだ。

 エアチェック版のAAC圧縮音声とはまったく比較にならない圧倒的なクオリティーだ。AACは缶詰的で鈍い音調だが、BD-ROMの音はきわめてクリアだ。実にヒューマンで、温度感が高く、そこから生身の人が演奏した音が出ているという感覚がする。音の飛翔感も全く違い、演奏のその場から音の粒子がきらめきを伴って会場に充満するという臨場感がある。この音の違いには感動する。

 さて、題字なのはここで採用された非圧縮の96kHzサンプリング/24bitの「96/24」である。デジタルのきわめて大事な原理に「シャノンの定理」がある。サンプリング周波数の半分の周波数までは完全に元のアナログ信号に復元可能というものだ。96kHzサンプリングでは、シャノンの定理から4万8000Hzまで再生できる。CDの場合は44.1kHzサンプリングのため、2万Hzまでしか再生できない。

 24bitというのはダイナミックレンジを表す。CDは16bitであるから、1bit6デシベルと考えると、96デシベルまで再生できる。これに対して24bitなら6倍の124デシベルまで再生できる。オーケストラの1番小さな音から1番大きな音までのレンジは120デシベルだ。CDはそこまで再生できない。しかし今回のNHKのディスクはそこまで再生できる。

 さらにサラウンド(5.0ch)としての魅力が絶大だ。本作品のディレクターに話を聞く機会があったが、彼はこう言った。

 「画面が小さいと、迫力という点でどうしてもアップの映像に頼ります。歌モノだとそれはそれで効果的なのですが、100人ものオーケストラが奏でるマッシブな音の迫力には、どうしてもそぐわないのです。今回の収録では ハイビジョンの解像度を生かしてミディアムからオーケストラの全体といった、いわゆる引きの映像を多く取り入れ、そのことによってサラウンド音声の立体感と、より上手く融合するように工夫しています」



■実に幸せな音楽体験

 本作品のマルチチャンネル音響の本質は「場の感動力」である。ポイントは3つある。

 ひとつが楽器の位置の把握だ。オーケストラ全体を引いて撮った映像が基本である。そこに、センタースピーカーが加わるとどうなるか。2チャンネル時には、スクリーン上に貼り付いているような音像感だったのが、マルチでは木管や金管などの奥にある楽器群までの距離感が感覚的に掴(つか)めるようになる。つまり奥行き方向に定位感が感じられるようになった。

 それがもっともよく分かるのが、第三楽章の行進曲における金管の活躍だ。画面の奥から、ある距離を経て、自分の耳に飛び込んでくる音の驀進(ばくしん)感が堪能できた。チャイコフスキーのこの交響曲では弦、木管、金管のパートで旋律を順に渡していく場面が多いが、マルチチャンネルでは、映像情報と相まって、位置的に異なる各部が実に円滑に受け渡していることが、立体的に把握できた。オーディオ的にはアキュレイトな分離感を持ちながら、音楽再現としてはそれらが融合することによる統一感、一体感も痛切に感じられるのである。

 2番目は空気感だ。音に飛翔性と弾力性が加わり、スクリーンの上を軽やかに舞う。空気感というと響き成分の間接音を指す言葉だが、あえて直接音の空気感が格段に豊かになった――と言おう。それは音楽がまさに生まれる瞬間に立ち会えた喜びである。

 この空気感の再現もまた96/24で非圧縮ならではの利点といえよう。つまり音質の良さがリアルな音響再現を支えているのである。これまでのマルチチャンネルは、イコール「臨場感」というキーワードにリンクしていた。しかし、96/24のリニアPCMのマルチチャンネルを聞いて、その言葉だけでは、私が受けた感動を伝えられないと思った。それは「スリリングな音楽体験」といってもいい。

 3番目のマルチチャンネルの御利益は、ベルリン・フィルハーモニーホールの大きさ、固有の響きが手に取るように分かることだ。面白いのが、金管のサウンド。前方奥のピットから発せられた金管音が、そのまままっすぐ聞き手に向かって突進し、頭上を越え、後方へ飛翔、壁面にぶつかり反射する様子が文字通り、見える。実際には音速だから瞬時のことなのだが、あまりに軌跡が明確なので、ビジブルになる。ワインヤード型ならではのフィルハーモニーの開放的な響きが、視聴室に充満する。

 小澤征爾とベルリン・フィルの演奏をリアルに会場的に味わえるのは、実に幸せなる音楽体験という外に言葉を持たない。


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■耳にやさしい“爆発音”

 もうひとつ音声で感動したのは、バンダイビジュアルが来年2月に発売する、大友克洋監督のアニメ映画「AKIRA」のBD-ROM版だ。これは驚くことに96/24よりさらに上の「192/24」、つまり96kHzをさらに倍にしたサンプリングレートで収録されている。これはBDの最高のデジタルパラメーターであり、世界で初めてBDの限界に挑戦したディスクだ。圧縮はドルビーのロスレス、TrueHDを使った。
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 今秋、経済産業省などによるイベント「JAPAN国際コンテンツフェスティバル」が開催された。私はそこで、AKIRAの音楽を担当し今回の音制作やマスタリングを担当した大橋力氏(脳科学者、作曲家)と、バーチャルリアリティーの世界的権威である東京大学大学院の廣瀬通孝教授との3人によるトークショーを行った。



 私はそこで初めて192kHz/24bitの音でAKIRAを聞いたのである。

 192kHzサンプリングということは9万Hzまで音が出るため、スピーカーも相当大変だ。従来のスピーカーは数万Hzで高域特性が終わるのだが、パイオニアのスーパートゥイター「PT-R9」なら10万Hzまで出せる。これを会場に数多く並べ、表参道ヒルズの会場全体を超音波スタジオに仕立ててAKIRAを再生したのである。

 私は最前列の関係者席で聞いた。驚いた。

 音が全然うるさくないのである。AKIRAは爆発音など衝撃系のサウンドエフェクトが多い。従来のDVDやBDで見た他の映画では爆音が耳につく思いがしていたが、AKIRAのサウンドトラックは非常に耳にやさしく、暖かく包まれるような感じがする。音楽やセリフはしっかりと芯を持ちながら、自然そのもののやわらかい音がしていた。

 ネットニュースサイトの記事が私の発言を忠実に伝えている。

 「麻倉氏はまず、BD版『AKIRA』の音質について『レンジがとにかく広く、感想を一言で言うと“うるさくない”。こんなにうるさく感じないアクションシーンが連続する映画を観たのは初めて。普通のDVD/BDでアクション映画を観ると迫力はあるけど疲れてしまうものが多いが、今回のAKIRAは血潮がたぎるような、良い意味で興奮する、丁寧なサラウンドだった』と感想を語る。」(AVウォッチ10月21日掲載)

 私の経験では、サンプリングレートを上げ周波数帯域が広がるということは、聴感上では高域が伸び、クリアになり、シャキっとするのかと思いきや、実際は、まるで違う。実にしっとりとした、自然な音になる。低いサンプリング周波数では音調のバランスがハイキー気味になる。リンギングやオーバーシュートなどの強調感があり、硬めだ。ところが、ハイサンプリングは音調がナチュラルになり、音の構造もより緻密に入念になり、微粒子が丁寧に練られたという印象で、細かな表情まで再現するようになる。


■大橋氏の芸術が初めて十全足る姿に

 なぜサンプリング周波数を上げると音が気持ちよく、快適になって聞こえるのか。まずデジタル技術的に説明すると(1)再生できる周波数帯域が広がったことによるワイドレンジ効果、(2)量子ノイズが広帯域に分散するためのS/N拡大効果、(3)過渡応答特性の向上――ということになる。

 大橋氏がAKIRAのサウンドトラックにかけた思いは、いかに10万Hzを出すかということである。大橋氏は人間の高域聴覚限界を超えた音(大橋氏はこれをハイパーソニックと命名している)が人にどのような影響を与えるかを研究している。



 大橋氏によると、人には2万Hz以上は「聞こえない」とするのは間違いという。可聴帯域以上の超高域は人の心や健康にとって極めて重要であるらしい。その理論を実践するために今回のAKIRAのBD-ROMでは、もともと10万Hzまで入っていたサウンドトラックを何ら損傷することなく、そのままの周波数帯域を確保して収容した。BD-ROMフォーマットの転送レートの高さと、大容量が可能にしたのである。

 このことを逆に言うと、大橋氏の芸術やハイパーソニックの狙いをそのまま実現するには、従来のDVDでは全く用を成さないし、BDであっても先ほどの「悲愴」までのデジタルパラメーターでは思うようにリソースを入れられなかった。今回初めて、大橋氏の芸術が十全足る姿をもってパッケージ化されたのである。

 BDの中に192/24の5.1chを入れるというのは大変なチャレンジだったらしい。ロスレス圧縮を担当したドルビー、映像を担当したソニーPCL、発売元のバンダイビジュアルの合同チームの総合的な努力によって、今回のディスクが実現したという。



■2万Hzから上の高周波がもたらす快適さ

 大橋氏のいうハイパーソニック効果とはどういうことなのか。確かに人の耳では可聴帯域となる2万Hzまでしか聞こえないのだが、それ以上の高周波のハイパーソニックは体で聞いているという。体で聞いたハイパーソニックと耳で聞いた音が頭の中で合体し、2万Hzまでの可聴帯域の音がきれいな心地よい音になってくれるらしい。

 その結果、人間が快感を感じた時に出るα(アルファー)波の出方が全く変わるという。2万Hzまでの音を聞いている場合と、ハイパーソニックを含んだ音を聞いている場合は、後者の方が断然、α波が出るということだ。

 大橋氏は「都市居住空間における音環境」という論文の中で、コンクリートに囲まれた人工的な環境と自然に近い木造住宅などの環境のそれぞれにおける音環境を調べ、「自然に近い環境では、2万Hzを大幅に上回る高周波成分が豊富に存在し、その環境下にいる人間の脳波はα波などのパワー分布の遅い波が顕著に増加する。この現象は禅の瞑想など意識状態の変容や快感をともなう独特な生理状態下で現れる現象と共通している」と述べている。

 一方、コンクリートに囲まれた人工的な環境では高周波成分が非常に少なく、α波が減少し、緊張、ストレス状態で活性化するβ(ベータ)波が強くなるという。このようにして2万Hz以上の高周波成分の存在が、快適な生活にとっては必要だという意見を大橋氏は示しているのである。

 また別の研究では、インドネシアのガムラン音楽の試聴実験で、26kHz以上の高周波成分を含んだ音とそれをカットした音を比較したところ、「26kHz以上の高周波をカットすると音が固く、鋭く感じられ、26kHz以上の高周波を含む全帯域の音では、より柔らかく、耳当たり良く感じられた」という。もちろん26kHz以上の高周波だけ単独で認知した被験者はなかった。

 この実験を通じて大橋氏は「これらの高周波成分はそれ単独では音としては知覚されないが、可聴音と共存する時、その可聴音をより柔らかく、耳障りのよいものとして感受させる作用を持つ」と断言している。

 大橋氏はこの効果を実践しており、もうCDは出さないと宣言している。2万Hzまでしか再生できないCDは人間の健康に悪いということらしい。

 それはともかく、今回のAKIRAのBD-ROMで、本当にそれを自分の耳で聞くことができた。衝撃音のサウンドエフェクトであってもこれほど心地の良い音が聞けるというのは大変な驚きだった。



3■パッケージメディアの音質の歴史を紐解く

 パッケージメディアの音質について振り返ってみよう。まずビデオソフトが出たのはVHS、ベータの時代だ。この時はアナログ音声のAM変調(振幅変調)で、言ってみればAMラジオのようなノイズにまみれた帯域の狭い音で登場した。

 1980年代に入り、あまりに音が悪いため、FM変調という方式を取り入れようということになった。これによってFM放送とAM放送の違いのような、きれいなすっきりとした音が入ってきた。ハイファイビデオである。

 ここまではアナログだが、ついにレーザーディスクが81年に登場する。レーザーディスクの音は最初はFM変調だったが、時あたかも82年にCDが登場し、84年にはCDと同じ音声の方式となる41.9kHzサンプリング/16bitのデジタル変調がレーザーディスクにも取り入れられた。この時からレーザーディスクの音が飛躍的によくなったのである。

 レーザーディスクはその後10年ほど、画像はFM変調、音声はデジタルという“デジアナ”として広まった。

 レーザーディスクを小型化したDVDが登場したのは96年。この時、映像は同じSDという範疇だったが、MPEG2の技術を入れることでデジタル圧縮した。音声も当然、デジタルである。ただし、2chはCDと同じ44.1kHz/16bitの非圧縮としたが、さすがに5.1chまで非圧縮にするのは難しい。

 DVDの場合、転送レートは音声と映像を合わせて10Mbpsまで確保できる。そのなかで映像はやはり7~8Mbpsを占めるため、音声用の残りはだいたい1Mbps以下になってしまう。CDの2chの44.1kHz/16bitは1.5Mbpsをとる。もし5.1chも非圧縮でやるとなると、2chの1.5Mbpsに「2分の5.1」をかけた4Mbpsくらいになってしまう。これではとても無理なのだ。

 そんなニーズにうまく対応したのが、レーザーディスクの最後の段階でドルビーが開発した「AC3」というデジタル圧縮/伸長方式だ。5.1chを10分の1程度までうまく圧縮し、384kbpsにする。「オーディオ・コーデック・3」としてレーザーディスクにシステムとして搭載していたが、これをDVDのフォーマットを作る時に「ドルビーデジタル」という名前に変えて標準装備した。

 DVDが登場した翌年くらいには、DVDのもうひとつのオプションとして「DTS(デジタル・シアター・システムズ)」が出てきた。圧縮度が高いドルビーは、いまひとつということから、スピルバーグ監督が映画「ジュラシック・パーク」の制作時に、当時のユニバーサルの幹部と共同でDTSという会社を作った。DTSはドルビーとは異なるアルゴリズムによる緩い圧縮で、ドルビーが5.1chで384kbpsのところを、4倍の1.5Mbps程度の帯域をとることで音のよさをアピールした。

 確かにDVDではドルビーデジタルと比べてDTSの音の剛毅さが際立っていた。ドルビーはほっそりとした柳腰の音という感じがしたが、DTSはまるでブルドーザーのような豪快な音をしていた。
DVD時代が10年ほど続き、2006年からはBDの時代になった。BDでは画像だけでなく音声も改革した。これが今いうHD Audioだ。

 基本的な考え方としては、絵がSDからHDになり飛躍的に向上するなか、もし従来と同じドルビーやDTSというシステムを使い続けると、絵はよいが音は悪いということになってしまう。絵もよく音もよくということでない限り、次世代のエンターテインメントとは言えない。





■BDが取り込んだロッシー、ロスレス、リニアPCM

 BDでは従来を継承する音声システムと、従来になかった全く新しいシステムを導入した。従来を継承したのは「ドルビーデジタルプラス」と「DTS-HD Audio」だ。これは要するに、従来のドルビー、DTSのビットレートを上げたものと考えれば分かりやすい。

 根本的な問題はロッシー(非可逆)、つまり損傷付きということだ。元のベースバンドに対して何分の1かに圧縮をかけ、元に戻す作業をするが、圧縮伸張の過程で元の音質には戻らない。だからロス付きという。

 ドルビーもDTSも基本原理として、人間の聴覚心理に基づいて音を間引いている。例えば1000Hzに大きな音がどーんとある時に、その近く――例えば1200Hzの小さな音はあまり聞こえないためカットする。同じ時間に複数の音が出た時は一番大きい音だけ残し他はカットする――こういった聴覚心理の研究から音を引いていくのがロッシーの基本的な考え方だ。その原理からして、元の音には戻らず、何らかのひずみが発生する。

 ただ、そうであったとしても転送レートを高めればさらにいい音ができることから従来のシステムを延長した。これがBD-ROMのロッシー群だ。

 もうひとつはロスレス群。これは90年代後半から実用化されてきた「ロスレス圧縮」を使う。パソコンで言えば「LZH」という圧縮方法がある。これはファイルを送るときに2分の1程度に圧縮して送り、元に戻すというものだ。これは感覚的ではなく論理的に圧縮しているため、完全に符号が元に戻る。

 これを使ったオーディオフォーマットは既に先に出ていた。それがDVDオーディオとSA-CDだ。SA-CDはフィリップスが開発したロスレス方式を採用した。DVDオーディオはDVDフォーラム世界各社がイギリスのメリディアンというオーディオメーカーが開発したメリディアンロスレスという技術を取り入れ、どちらもフォーマットとして完成していた。

 今回、このDVDオーディオに関する技術が、BD-ROMのロスレスオーディオに入った。ひとつはドルビーの「TrueHD」というロスレスオーディオだ。

 これはすごく単純な話である。ドルビーがメリディアンの代理店になり、自社商品となるメリディアンのロスレスをそのまま採用したのがTrueHDだ。もうひとつのDTSには「DTS-HDマスターオーディオ」というロスレスがある。これはDVD Audioのコンペで負けたDTS保有の技術をそのまま使った。非常に分かりやすい構図だ。ロスレス群では完全に符号が戻るため、従来のDVDで高品質な音が聞けるようになった。

 3番目の群はロスレスでもロッシーでもない。絶対に圧縮しない、非圧縮のリニアPCMになる。CDのような非圧縮のフォーマットをそのまま5.1チャンネル、最高7.1チャンネルまで立ち上げる。サンプリング周波数と量子化ビット数についていうと、ロッシー、ロスレス、リニアPCMはいずれも192kHz/24bitまでサポートする。



■スタジオのこだわりが出る使い分け

 この3つはどう使い分ければよいだろう。一番転送レートの面積をとるのはリニアPCMだ。例えばリニアPCMは先ほど述べたように96/24、5.0チャンネルであれば10Mbpsをとってしまう。それだけでDVDに換算すると使えるビット帯域を全部、費消してしまう。

 広大な50GBのBDディスクとはいえ、映像にビットを与え、特典のメイキングビデオなどもハイビジョンで入れるとなると、音用の帯域の確保がかなり大変になってくる。その時はロスレス、さらにはロッシーを使うことになる。

 このあたりは各コンテンツ会社の裁量となるが、面白いことにスタジオによって使い方にはかなり違いがある。

 米ワーナー・ブラザーズ系はドルビーが好きなので、trueHDが結構多い。米20世紀フォックスはDTSにこだわっており、DTSのHDマスターオーディオが多い。米ディズニーとソニーは、当初のリリースではリニアPCMを使っていたが、最近はTrueHDが多くなった。ディズニーとソニーの事情としては、本体映像の画質を考慮し、メイキングも充実してくるなかで、音声については一挙にロスレスに走ったといえる。

 ここで、オーディオ的に大きな興味をひくのは、もし符号が完全に元に戻るのであれば、リニアPCMという存在はいらないのではないかということだ。リニアPCMもロスレスも完全に符号は復号している。

 そこで、これを聴き比べられるディスクがいくつかある。ひとつはギャガ・コミュニケーションズがリリースした「オペラ座の怪人」で、trueHDとリニアPCMの音声が入っている。もうひとつはソニー・ピクチャーズエンタテインメントの「未知との遭遇」。これにはドルビーTrueHDとDTS-HDマスターオーディオの2つのロスレスが入っている。比較試聴してみるととても面白い。

 まず、「オペラ座の怪人」でTrueHDとリニアPCMを比較すると、圧倒的にリニアPCMの方が音質がよい。TrueHDも音が相当よくなってはいるが、リニアPCMの前には全くかなわない。やはり圧縮した感じ、せせこましい感じがある。それに対し、リニアPCMは開放的で温かさとヒューマンな味わいがある。

 一方、ドルビーとDTSの違いを比べてみると、実はDVDの時とは大違いというのが面白い。DVDの時代はドルビーが「柳腰」で、DTSが「ブルドーザー」だったのだが、今回はドルビーTrueHDはくっきりとした高解像度の“しゃっきり鮮明路線”、DTSはほっそりして、はんなりしている。穏当な響きだ。

 リニアPCMがロスレスと違うのは何が効いているからか。リニアPCMは再生系に対する負担が非常に少ない。デコードの作業がいらないため、そのままストレートに処理をすればよい。ロスレス圧縮では、伸長する時にAVアンプ内でかなりリソースを消費する。そのことが、音の違いに表れている。

 ドルビーとDTSの違いはアルゴリズムの違いだ。ここに何らかの音作りという意図が加わっている可能性もある。


■音質は悪くなったデジタル放送

 以上、BDの音のよさを概括してきたが、BD-ROMのハイビジョンの素晴らしさと、音質の素晴らしさは手を携えて、21世紀型の新しいホームシアターのありかたを雄弁に示している。本当に素晴らしいことだ。

 最後に素晴らしくないことをいうと、BSと地上波のデジタル放送である。映像はMPEG2のハイビジョンでかなり良好なのだが、音が最低最悪だ。BD-ROMの世界は絵もSDからHDになり、音もSDからHDに切り替えてHD Audioと呼んでいるが、デジタル放送は絵ばかりよくなって、音は逆に悪くなっている。



 音が一番よいのは、BS放送のアナログの「Bモード」。48kHzサンプリング/16bitの非圧縮だからCDより音がよい。

 ところが、デジタル放送はMPEG2-AACを採用したため、非常に圧縮率が高く、音楽番組などではクオリティーが耳に聞こえて低い。ベールを何枚も被った印象だ。冒頭のチャイコフスキー「悲愴」で述べたように「缶詰的で鈍い音調」なのである。AACも昔と比べればエンコードはよくなっているが、やはり圧縮している痕跡は歴然である。

 しかし、デジタル放送は音楽番組も多く、音にこだわるべき番組が多い。そういう意味ではデジタル放送こそ絵もハイビジョン、音もハイビジョンが求められ、せめてドルビーTrueHDくらいは採用してもらいたいものだ。

 映像に関しても、いまやMPEG2は時代遅れだ。そこで、いったん総決算して取りやめ、絵はAVC方式にし、音声はロスレス圧縮に変更するのが、今後のデジタル放送の発展に向けた大英断として必要なのではなかろうか。
2008年11月20日



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